2019年HuMA熊本地震被災者医療支援評価 及び被災地の災害対応能力向上に向けた取り組み
避難所に対する巡回診療について
1. 妥当性・適切性
ADRO、阿蘇市保健センターからの依頼に基づいて行われており、被災地のニーズに適応したものであった。保健師からも支援の期間は適切であったとあり、HuMAの巡回診療は妥当であったといえる。ただ、急性期の支援では、地元団体と情報共有、協働が不十分であった。
2. 連結性
2016年の評価調査(災害発生から3か月後)では、避難所「かんぽの宿」にいる高血糖値の被災者をピックアップし、その後の保健師による継続した訪問につながった、と良かった点が挙げられた。保健師が被災前から使用していた「個人管理表」を共有化することで個人の健康管理の継続ができた。HuMAでサマリーを作成した3名はそれぞれ継続した介入ができた。具体的には、避難所で保健師が毎回フォローアップ、被災地外の身内に引き取られるまでの継続的な介入、ケアマネージャーを通してかかりつけ医に受診手段を確保し訪問看護につなげる等であった。今回の3年後の評価ではすでに大きな問題はなく落ち着いており、平常に近い状態であった。短期支援から長期支援につなげた結果であると言える。ただ、被災後に血圧は低下してもHbA1cが下がらないのが課題となっている。その原因として避難所の食生活が習慣化したことや元々地域特有の痩せ型の糖尿病患者が多い傾向があり、震災時の負荷をきっかけとした悪化が考えられる。
3. 一貫性
HuMAは介入支援開始から撤退まで一貫して診療ニーズの変動や衛生管理に目を配り、必要に応じた臨機応変な診療体制を取っていた。突然の診療中止はなく医療支援終了時は事前告知があったことで問題はなかった。情報を共有化することで支援が必要な避難所について継続して巡回ができた。
4. 被覆率
巡回時間も適切であり、夜間の避難所の診療ニーズに迅速に対応したため、派遣保健師の補填ができた。問題はなかった。
5. 効率性
経過と共に医療支援チームは漸減していったが被災地の医療体制の安定して行き、医療面での大きな混乱はみられなかった。
6. 有効性
避難所の健康被害と早期発見や予防については、必要時は巡回診療の医療チームに相談できたことで有効な支援ができたといえる。医療ニーズが高い重症者は早めの介入を行うことができたため、支援は有効であったといえる。今後の課題としては、避難所で配布された支援物資のフォローアップ等が挙げられた受領者の管理状況や使用の感想、相談、問い合わせ、普及状況など不明点が多く評価が困難な状況である。他には、遅発性のメンタルヘルスの発生状況、また、HuMA第1次隊によるトイレ改善や第2次隊による栄養改善によるその後の影響について等、課題は多く見られる。
7. インパクト
診療所の受診者数は被災後20%減から徐々に上昇し現在は5%減程度になったが、失職などの問題は特になかった。
8. 持続性
HuMA撤退後、大きな混乱はなく医療ニーズが増加したという報告もなく、保健師の巡回で対応できていた。また避難所の住民が減少していく中で避難所での医療ニーズが減少し、地元の病院やクリニックが再開していったことで地元での対応が可能となっていった。
提言
今後の災害医療支援において、医療を提供する際には被災地の調整システムの下で行うことが重要と考えられる。他のチームとの情報共有や協働ができるよう互いの平時からの関係構築やHuMAの認知度を改善し、被災時の多様な医療チームの中で迅速かつ効率的な医療ニーズに介入できるようしていく必要があると考える。また、もし避難所で、提供された支援物資を配布するのであれば、適切なフォローアップの方法についても事前に計画を立てておく必要がある。長期的なメンタルヘルス問題、支援後の影響の正確な評価、市や地域での備えへの反映が今後の課題である。