
活動日:2024年11月29日(金)~ 12月1日(日)・主な活動場所:広島港周辺
今年も(特非)ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)による大規模災害発生時に迅速かつ的確な救急救助等の対応力向上を目的とした訓練が開催されました。今年は、安芸灘~伊予灘~豊後水道を震源とする地震(最大震度6強)が発生したという想定で、洋上訓練および岸壁での船内訓練でした。医師1名がスタッフとして、また医師、看護師、調整員の3名がプレーヤーとして参加しました。
はじめてこの訓練に参加した医師からの活動報告です!
HuMAとして初めて参加した能登半島地震での活動から約一年が経過しました。当時は医療支援の経験もないまま現場に飛び込み、先輩方の背中を追いかけながら多くを学びました。そしてこのたび、災害医療支援船を活用した訓練の案内を目にした瞬間、迷わず参加を決断しました。訓練経験はありませんでしたが、実践的な学びに向けた貴重な機会だと感じたからです。 今回、HuMAからは医師である私と、看護師、救命士の3人チームでの参加となりました。普段は予定手術の多い病院に勤務しており、災害医療の知識は限られていましたが、経験豊富な2人のチームメンバーから準備の要点を教わりながら、初めての訓練で不安ながらも何でも吸収してこよう、という気持ちで臨みました。

そして1日目の訓練が始まりました。HuMAチームは、発災2日目の現地入りの想定です。船上という特殊な環境下での医療支援は、通常の陸上訓練とは異なる課題が山積していました。まず、車から医療資材を荷下ろしをし、急で狭い階段の多い船内へスーツケースを運び込むところから始まりました。 船内の医療設備や施設を確認している最中に、最初の想定症例が発生しました。船内での階段からの転落事故。HuMAチームへの出動要請です。折りたたみ式の担架を持って現場へ急行しましたが、狭く急な階段では担架の展開が困難で、傾斜も危険なため、乗せたところで担いで上がることは困難と判断しました。HuMAの救急隊員が患者を背負って搬送することになりました。医務室での精査では、船内に設置されたコンパクトなレントゲン設備を活用し、足関節骨折と診断。シーネ固定を行い、この症例は一段落しました。

一息つく間もなく、離島避難所のアセスメント指令が下り、骨折患者の申し送り後、ヘリで現地へ向かいました。避難所では予想を上回る患者が待機していました。トリアージを実施しながら、外国人外傷患者、心筋梗塞、肺塞栓、透析患者などを分類し、搬送優先順位を決定。限られた搬送手段を本部と調整しながら、適切な対応を模索しました。 初回のトリアージでは必要最低限の情報で緊急性を判断し、その後もチームで分担して情報収集を繰り返し、患者の状態変化を注視しました。搬送待機中の患者には限られた資源の中で輸液や内服薬の管理を行いました。処置の合間にも急変患者が発生し、搬送先の確保に追われる場面も多くありました。

2日目の訓練は搬送や救急患者調整が落ち着いた(想定)発災7日目。避難所の設営資材が到着し、設営に着手しました。限られた資材と避難者の世帯配置を考慮する作業は、想像以上に複雑でした。以前受講したBHELPの知識を活かしながら、被災経験者の助言も受けて計画を立案し、避難者の要望も取り入れながら調整を行いました。
2日目の最後は台湾・フィリピンの医療チームも交えての振り返り。私は中国での臨床経験と医師免許を持っていることから、休憩時間も積極的に両国のチームとコミュニケーションを図りました。このような訓練での関係構築が、実際の災害現場で大きな力となることは想像に難くありません。訓練全体を通して、医師として多角的な役割が求められる場面が多く、通常の臨床とは異なる環境下で、経験の少ない私は想像力を最大限に働かせながら対応しました。ベテランチームメンバーの支えがあってこそ、無事に訓練を完遂できたと感じています。
閉会式ではHuMAを代表して挨拶する機会もいただきました。突然の中国語でのスピーチ要請に少しドギマギしてしまいましたが、それも良い経験となりました。
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今回の訓練を通じて、同時多発的な傷病者への対応、ニーズの把握、リソースの適切な配分と指示、情報収集と共有の重要性を改めて認識しました。現場では常に判断を求められ、状況が刻々と変化していきます。その中で、冷静に最適な対応を選択する力が必要不可欠だと痛感しました。
2日間のHuMA訓練で得た経験は、言葉では表現しきれないほど貴重なものでした。現在も多くの被災現場で活動を続ける医療者やロジスティクスの皆様への感謝を胸に、この経験を活かしてさらなる実践的な学びを重ねていきたいと思います。