<ミャンマーの「ひと財産」>
およそ3年前、地区医師会の小冊子に「NGOでひと財産」とう小文を寄稿した。HuMAの活動で出会った人たちが私の人生の財産になっているということであって、お金儲けの話ではない。今回のミャンマーのサイクロン災害支援プロジェクトにおいても、あたらしい「ひと財産」ができたことを心から喜んでいる。新しい「ひと財産」はローカルスタッフとして本当に誠実な対応をしてくれた通訳のティンティンさんと、メッタヤイシンのトントンさんである。そのティンティンさんは、我らがT子さんを「天使」と呼んだ。
トントンさんの本職は家具屋・建築資材屋さんである。ヤンゴンの大学を卒業後地元(モラミンジャン)に戻り、家業に精を出しているが、家具屋さんの3階には瞑想室を作って日曜日の朝にはゆっくりと瞑想の時間をもつ。サイクロンはモラミンジャンタウンシップを通過し、ことに南部の村々に大きな被害をだした。彼は直後から被災した村々を回って支援活動をしてきたが、下痢と脱水で亡くなった子どもの話や、村人の水確保の苦労話をきいて、モラミンジャンの他の商店主などとともにMetta
YaysinというNGO結成し、村々に深井戸(tube
well)を寄贈する活動を始めた。現地調査で水の重要性を確信したTさんとトントンさんが出会ったのは昨年の9月のことである。この出会いが井戸を供与するというHuMAプロジェクトの開始につながったのであり、ティンティンさんのいう「天使」がこの出会いで誕生したのであった。
<IOMのテントクリニックとモーバイルクリニック>
今回のミッションで国際移住機構(IOM)の2ヶ所のテントクリニック(mobileとの対応でfixed
clinicと呼ばれる)を見学する機会があった。テントクリニックには椰子の葉などでテントの上に簡単な屋根を作り、強い日差しからテントを守っている。また、高さ30~40cmの木製の床を作って水からもクリニック全体を保護している。テントもこのようにして使えばかなり快適であり、清潔さも保たれている。Field
hospitalあるいはclinicを沢山見てきたし、テントといえば地面に直接張るもので、冬は寒くて夏は暑く、汚れるものだと思っていた小生にとって「目から鱗」の思いであった。医薬品に関しては、基本的なEmergency
Health
Kitに含まれる基本的な医薬品は十分揃っていた。2ヶ所のクリニックとも毎日60~100名の患者が受診していると言う話であった。受診患者の内訳は、サイクロンから10ヶ月も経過した後であるし、当然、上気道炎や腹痛、下痢症、高血圧、脳卒中後遺症、関節炎、妊娠などのcommon
diseaseが主だった。
モーバイルクリニックに一度だけ同行させてもらったが、若いドクターとナースが一組となってボートで片道1~2時間かけて村を訪問する。携行する医薬品や診療材料は大型の旅行鞄一つ分くらいである。若い医師やナースはIOMと契約して2週間交代で地方に出かけてくる。村長さん宅など、村の中では比較的大きな家を借りての診療だが、ほとんどの患者はfixed
clinicと同様、高血圧、関節炎、モラミンジャンの町やヤンゴンで治療を受けたあとのフォローアップなどであった。顎下腺から由来すると思われる大きな頚部腫瘍の老婆がいたが、この人の手術のためのモラミンジャンあるいはヤンゴンへの移送と受診費用、2週間の町での滞在費をIOMが負担するという支援プログラムがあるという話を聞いて大層感心した。数時間の診療を見学していたが、検査も何もできないのに、若い女医さん、なかなかよく患者さんを観察し、また親身になって話を聞いてあげていた。日本の研修医達にもぜひこのような診療を体験させてやりたいと改めて思った一日であった。