設立趣旨

二十世紀の終盤において東西冷戦構造が消滅し、恒久的な世界平和の実現が期待されましたが、現実は南北格差が益々拡大し、人種間・部族間紛争などがかえって激化して、数千万人の難民や国内被災民を生むにいたっています。そして2001年9月11日のアメリカ合衆国における同時多発テロとその後のアフガニスタンへの報復攻撃は、世界に新たな、且つより深刻な対立を生じさせる危険を孕んでいるといわなければなりません。他方、人口の急増と都市への集中化により、各種の災害が多発・大型化する傾向があり、これらの人為災害と自然災害によって、生命・健康・財産・生活権を脅かされる人々が今後なお一層増加するおそれがあります。したがって、科学的根拠に基づく組織的な人道的医療援助のニーズはますます高まっています。

日本国内の災害を顧みても、北海道南西沖地震、阪神・淡路大震災、東京地下鉄サリン事件、出血性大腸菌O-157による学童集団食中毒、砒素入りカレー事件、東海村臨界事故、学童多数殺傷事件、明石花火大会時の将棋倒し事故等々、集団災害に対する医療対応に問題があったとされる事例はあとを絶たちません。なおまた、数十年以内に高い確率で起こるであろうと予測される東海地震、東南海地震、南海地震などの被害は、阪神・淡路大震災を凌駕する大規模なものとなる可能性も指摘されています。

これに対して、日本国内の災害医療対応としては、全国的な災害拠点病院の整備や災害・救急医療情報システムの構築などの取り組みがなされてきましたが、これらのハードウエアの整備に対して、対応する人材の育成が遅れがちであり、その一因として良質な災害医療教育カリキュラムや教材の不足も指摘されています。

グローバルな人道的医療救援活動は、ボランティアグループと日本赤十字社、GOである国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)などが対応してきましたが、各NGOは比較的小規模であり、大型災害に対する対応能力は小さく、訓練された人材の不足に悩まされています。JMTDRの活動には政府の意思決定が必要で、法律の下に活動するので当然さまざまな制約があります。自衛隊医療班はPKO法やテロ特別対策法にしたがって活動が可能ですが、JMTDR以上にその活動への制約が大きいという問題があります。

こういった国内外の災害をめぐる情勢にかんがみて、私たちは、1980年代のカンボジア難民救援医療やJMTDRの活動、阪神・淡路大震災の医療活動の経験や国際災害研究会での知識の蓄積を生かしつつ、国家間協定や条約、国内法などの制約に拘束されず、あらゆる種類の災害の被災者に柔軟に人道的医療援助をおこない、また、災害医療にかかわる研究・教育を推進する目的で、特定非営利活動法人「災害人道医療支援会(Humanitarian Medical Assistance, HuMA)」を設立することに致しました。